スウェーデンおつかい旅 2017(夏)@第17話:やっと見つけた自分のストックホルム

2017年6月から7月にかけて、北欧スウェーデンとフィンランドへおつかいへ行くことにしました。その様子を準備段階からまとめていきます。

今日は体力的にとても疲れているはずなのですが、なんだかやり切った感があります。というのも、自分が探していた理想のストックホルム満喫プランを構成しうる材料がいくつか見つかったのです。ストックホルム最終日(また一旦もどってくるけど)、思いがけない発見が続いた一日でした。

まず今の状況ですけれども、ストックホルム中央駅で夜行列車の出発時間を待っています。移動と宿泊を兼ねれば宿泊費がいくらか浮きますから。とはいえ、文系のクセにかなりこういった詰め込みスケジュールを組んでしまっていつも自分を追い込んでしまうんですよね。でも、やり遂げたときには「自分はいざというときにここまでできる」という指針になるので、いいと思います。日本にいるときは全然がんばらないから、こういうときこそ頑張らないと。

で、ハナシを今朝に戻します。昨日の夜、重い荷物を引きずってはるばる郵便局まで持っていったのに、もう営業時間を過ぎていたと。そういうことなので、チェックアウト時間である11時までにもう一回荷物を持って郵便局に向かいます。結果的に、おおよそ30キログラムの荷物を送りました。こういうときに毎回思うんですけれども、人間って意外に重いんだな、って。いつも自分の体重を支えて文句を言わずに歩いている脚たちに感謝の気持ちが湧いてきます。いや、すぐにその感謝も忘れちゃうんですけどね。

荷物を出して、スーツケースに衣類などもつめこんでチェックアウト。時間は10時半といったところ。夜行列車が出発するまで12時間以上ありますが、もう買い物をしても列車に乗るのが大変なだけなので、さて何をしようか迷うところ。

で、一旦ストックホルム中央駅のロッカーに荷物を預けたあと、昨日の夕方にカールと一緒にやって来たときには既に閉店していたカフェに行きました。いや、正確にスウェーデン風に言い直しましょう。「Kafé(カフェー)」ではなく、「Konditori(コンディトリー)」にやってきました。(カフェーって書くの煩わしいので、以下カフェって書きます)

この2つの言葉の間にあるニュアンスの違いを正確に描写できるわけではないのですが、昨日カールと一緒に話したときにピンと来た会話がありました。「スターバックスとかエスプレッソハウス(コーヒーチェーン店)とかアメリカっぽいKafé(カフェ)が増えているけれども、Konditori(コンディトリー)はスウェーデンの伝統的なスタイルを貫いている感じがする」と。

なるほどたしかに。カフェとコンディトリーは提供しているものは似ているけれども、ハコが違うような気がします。つまり、店内の雰囲気が違うのです。コンディトリーを名乗っている店に入ると、年季の入った木製家具や建物の雰囲気に囲まれていて伝統がひしひしと伝わってきます。

というわけで、コンディトリーにやってきました。その名も『Citykonditoriet(シティー・コンディトリーエット)』です。最後に”et”が付いているのは、スウェーデン語を学習されている方ならご存知でしょうけれども、英語の”the”にあたるものです。

外観からしてまったく飲食店っぽくないのですが、それもそのはず。そもそもがコンディトリーとして建築された建物ではないのですから。

1階の玄関ホールにはメニューが立ててありましたが、コンディトリーのあるフロアーは3階。日本人であれば不安を抱くくらいに年季の入ったエレベーターに乗っていくか、階段で3階まで上がります。

ちなみにホームページはこちら(スウェーデン語のみ)。

エレベーターから降り、小さなホールを抜けるとそこに広がっていたのはダンスホールのような空間でした。ホームページの内容をざっと読んでみると、建物は1912年に建築され、いまや100年以上の歴史を持つ建物のこの空間は、1972年よりカフェとして営業を始めたそうです。現在、コンディトリーとしては40歳以上ですね。持ち主が何度も変わり、現在は教会によってこのコンディトリーが運営されています。

午前11時という時間がすこし早いのか、自分が着いた時点では席にかなりの余裕があり、とても静かな店内といった印象を受けました。

スウェーデンの伝統的なレシピの洋菓子が冷蔵ショーケースに並んでいます。自分で皿に取ってレジで会計をしてもらうスタイル。普通のコーヒーは、スウェーデンに多いセルフサービス方式で、レジで会計をした後に自分でカップにコーヒーを注ぎます。

ちなみにきちんと店内で独自に焼き上げた洋菓子を提供しているようです。

自分がオーダーしたのはこちら。クッキーの『drömmar(ドルンマル)』、『chokladsnitt(ショクラードスニット)』、まんまるの『chokladboll(ショクラードボッル)』、ケーキの…えーと、名前はよくわかりませんがラズベリーがたくさん乗ったとてもスウェーデンらしいケーキです。とりあえず『ラズベリータルト』とでもしておきましょう。

『ドルンマル』は”夢”という意味です。この味は店長からなんとなく聞いていたのですが、たしかにそれほど夢を感じさせるような味ではなく素朴でしたが、「寿司屋の力量を計るにはまず玉子を頼め」という格言に従ってのチョイス。いや、あんまり意識して食べたことなかったからいい機会だと思ってオーダーしただけなのですけれども、普通のクッキーです。嫌いじゃないです。『ショクラードスニット』も想像がつくかと思います。

『ショクラードボッル』はカッテンでも提供しているので、本場と食べくらべてみることに。うん、あんまり変わらないかな。ちょっとこちらの方が大きいので食感は多少変わりますが、カッテンのもいい味だしているということでよかったです。

で、『ラズベリータルト』が絶妙でした。ものすごくスウェーデンらしい味で、甘さもバランスよく、カスタードとラズベリーの風味がとてもマッチしていました。食レポってこんな感じですか?でも、これは本当に食べてよかった。

味も雰囲気もとても自分好みでした。ストックホルムに来たらまた寄りたい。

で、ですよ。なんでこんなにいい店なのにあんまり客がいないのかなと考えていたのですが、ヒントは店のBGMにありました。このコンディトリーのBGM、ないんです。つまり店内で音楽を掛けていなくて、カツーンカツーンみたいな音だったり、カチャカチャという音だったり、ペチャクチャという実際にその場にいるお客さんが出した音だけが空間に響きます。

ほかのコンディトリーもそんなもんだったかな?と思っていたら、そのこともきちんとホームページに書いてありました。静かな空間で、ゆっくりとお客さん同士で会話を楽しんでもらえる空間を目指しているそうです。なるほど。

で、いろいろと考えているうちに気がついたのが、1階に置いてあったメニュー表も、スウェーデン語でしか書いてないんですよね。つまり、英語しかわからないお客さんは、どこにコンディトリーがあるのか気がつきづらいのです。わざとといえばわざと英語の表記をしないようにしていると思います。ホームページにも英語の案内はなさそうです。

教会によって運営されているからこそできるのでしょうかね。そこまで商業的にがんばってお客さんを呼び込まなくてもいいのかもしれません。自分が洋菓子を食している間に少しずつ少しずつお客さんも集まってきました。地元の方に愛されている、知る人ぞ知る名店であるハズです。

いつも人気でお客さんがたくさんの店よりも自分はこういった隠れ家的な店の雰囲気の方が好みなので、このコンディトリーの存在が知れたことは個人的にものすごい大きな収穫でした。

この店を教えてくれたエーリッカに感謝。

そしてこのコンディトリーを後にし、ふらりと寄った店で厄介なものを見つけてしまいました、ワッフル焼き器(直火ヴァージョン)を。店長からの勅命でこのワッフル焼き器をずっと探していたのですが、なかなか見つからないままだったのです。

また数日後にストックホルムに戻ってくるとはいえ、もし万が一これが売れてしまったら後悔の念にさいなやまされてしまう。これは買いだ!ということで、このワッフル焼き器を手にしてみると…完全に鉄塊です。かなりずっしりしていましたが、まずは探していたものが見つかった喜びの方が勝ってしまい、自然と足はレジへと向かっていました。

よかったよかったと、思ってバッグにこの鉄塊を入れると、絶対にノートパソコンよりも重い。これから10時間ほどの時間をストックホルムで潰そうという状況の今、これを持って歩くのかと思うと絶望しかありません。後先考えずに行動してしまうタイプだから怖いんですけれど、買ってしまった物はしょうがない。またこれを預けるために1000円払って中央駅のロッカーを開けるのも癪ですし、今日という時間をこの鉄塊と共にすることを決意しました。

歩くと大変なので、もう計画を立てずにできるだけ地下鉄で移動することだけを決めました。もう、ストックホルムの北の店と南の店を無駄に往復して、時間よ早く過ぎてくれと祈るのみ。

そんななか、カールが「日本のゲームセンターのゲーム機が置いてある店がある」ということを教えてくれたことを思い出したので、後学のためにちょっと覗いてみることにしました。スウェーデンには日本のようなゲームセンターはほとんどないので、そんなお店はゲーム好きのスウェーデン人にとってかなり貴重な存在です。

いざ店に着いてみると、名前が”ROQ”というだけあって、かなりのダークネス加減。これは敷居がかなり高いぞと躊躇しつつも、幸か不幸かまだお店は開いていないようでした。とりあえず足を踏み入れないで引き返す素晴らしい口実ができました。

で、お店のオープン時間の案内の貼り紙がめちゃくちゃ”POP”だったことが可笑しくて。「TREVLIG SOMMAR!(よい夏を!)」なんて。もしかするとお店の名前は「ROQ(ロック)」と読むのではなくて「ROQ(ろっきゅ)」なのかもしれません。

そんなこんなで写真をパシャパシャやってたら、開店準備をしにきたのかお店の管理者っぽいヒトが鍵を開けにきたので、そそくさと退散しました。とりあえず無事に”ろっきゅ”から生還できて、めでたしめでたし。

いよいよチェックしたい店もなくなったので、最後の手段としてすこし郊外にある観光地らしい観光地に行くことにしました。鉄塊が重いなぁ。

で、まずは通称『Globen(グローベン)』と呼ばれている建物。コンサートだったりミュージカルだったりスポーツだったり、まあ形もさることながらストックホルム版の東京ドームみたいなものですかね。2年前に訪れたときには夜深くて真っ暗だったので、明るいうちにくるのはかなり久しぶりかもしれません。

グローベンの存在を知らない方も意外に多いのかなということで、資料として外観の写真を撮りたかったので満足です。

それから次に向かったのは『Skogskyrkogården(スコーグスシルコゴーデン)』という場所。直訳すれば”森の教会”という意味の場所で、世界遺産登録もされているそうです。昨日に訪れたストックホルム市立図書館の設計をしたグンナル・アスプルンドという建築家が関わった場所で、日本でもちょこちょこと紹介されていたかと思います。

ここも2年前に訪れたのですが、まあ真っ暗で人間の目では何があるのか見当もつかないくらいで、「変なヒトがウロチョロしていたらいやだなも何もそれ以前の問題だ」ということで、泣く泣く門前払いを喰らった、自分にとっての因縁の場所です。今日はリベンジしにきたゾ。

ストックホルムの中心から離れているので、観光で訪れるにはなかなか時間コストが見合わないでしょうから、そんなに訪れたことのあるヒトも多くないかもしれませんね。

自分がこの教会の敷地に着いた頃、ちょうど葬儀が終わったのか喪服の団体がぞろぞろと引き返していくところにすれ違いました。スウェーデンにもやっぱり喪服あるのか、と思いました。でもその一団とすれ違った後は、不思議なくらいに人影が見当たらない平原に。ヘルシンキで体験した喧噪まみれの観光地とはまったく逆、不安になるくらいヒトがいません。

ここのベンチに座って30分ほど時間をつぶしていくことにしました。しかし、30分のつもりが1時間が経ち、2時間が経ち。気がつけばかなりの時間を過ごしていました。

途中からベンチに座るのをやめて、仰向けに寝てみました。体育館で仰向けでいると、まるで天井が落ちてくるような錯覚になるんですけれどもね。雲が多ければそんな不思議な感覚も味わえたのでしょうけれども、ご覧の通り真っ青な空。何も落ちてきませんでした。

2時間の間、裸足になったり、バムセの漫画を読んだり、道をふさいでアリをちょっと困らせてみたり、結構あっという間に時間が過ぎていきました。

風が吹くとサワサワいうんです、白樺が。で、たまに茂みから鳥がガサガサ!ピョンピョコ…と飛び出してきて「なんだねチミは?」ってなるわけです。鳥の名前にそこまで造詣が深いわけではないですし、ましてやスウェーデンの鳥なので日本にいない種類も結構飛んでいる。でも、ベンチの近くで羽を広げてじっと座っている様子を見ると、一緒に日光浴をしている感じがして。

自分の求めているスウェーデンって、もうこういうのでいいかなって。『”何もしない”をしに行くところ』というのも贅沢な旅行ですよね。ストックホルム最終日にしてなんだか自分の理想のストックホルムの楽しみ方が出来上がった気がしました。ガイドツアーでは体験できない、ガイドブックには載らないスウェーデン体験ってまだまだあると思うんですけどね。

もしすでに1度ストックホルムに訪れてしまった方がいれば、2度目のストックホルムを楽しむコツを紹介できるようになりたいですね。少しずつ経験を積んでいきたいと思います。

ビョルネン・ソベル

リッラ・カッテンの絵本、雑貨、あと雑用を担当。本を読むことよりも、大量に並んだ背表紙や古い本の雰囲気が好き。つまり、あんまり本は読みません。葛飾出身の日本人。インスタグラムは「@lillakattenpaper

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