おとうとくんの舟の旅 Lillebrors segelfärd
av / Alice Tegnér (Åhlén & Åkerlund)
絵本のテキストがそのまま歌詞になった楽譜付き、
奇想天外な展開のミュージカル作品のような一冊です。
スウェーデンを代表する絵本作家「エルサ・ベスコフ」と、童謡作曲家で音楽教師でもあった「アリス・テグネール」の2人による作品です。各見開きの左側に楽譜が、右側にイラストとテキストが印刷された構成でこの本は作られています。
エルサ・ベスコフとアリス・テグネールが一緒に作品を手掛けた作品は数多くあります。しかし、その多くがアリス・テグネールがつくった曲が先にあって、その曲からインスピレーションを受けたシーンをエルサ・ベスコフがイラストに起こすという流れで作られたものと見受けられます。
しかしこの絵本は、先にベスコフが自由に文章を創造し、その出来上がった散文に対してテグネールが後からメロディーを付けたものだと思われます。よって、ベスコフによるテキストやイラストは音楽的な都合による制約を受けていないので、絵本作品として読んでまったく差し支えないものとなっています。
ストーリーは、おとうとくんがおかあさんの下から離れてクマのぬいぐるみと一緒に船旅にでるというシーンからスタートします。海に繰り出すと、スグに大きな魚が近づいてきますが、一緒に旅に出たクマのぬいぐるみが勇敢にもオールを振り回して追い返します。
荒波に揺られながら船旅を続けると、やがて黒人たちが暮らす南の島にたどり着きます。黒人たちと仲良くなって、バナナやココナッツをもらったり、ちいさなサルが一緒に船旅についてくることになったりしながら、さらに船旅は続きます。
この絵本にも登場するように、スウェーデンの絵本には黒人たちの姿が描かれることがしばしば。現在では差別的表現と捉えられることもありますが、かつてのスウェーデン絵本に登場する黒人たちは、差別的な視点で描かれているというよりも、その存在がどこか好意的に受け入れられて描かれているような気がします。
ちなみに、南の島の次に訪れるのは中国です。中国や日本も、かつてのスウェーデンの子供向けの本に登場することが少なくありません。描かれる人物は、やはり目が吊り上がっていて、肌が黄色っぽかったりするのですけれども。
外国に関して得られる情報がほとんどなかった時代、子供たちは絵本を通じて外国への興味の扉を開いていたのでしょう。
個人的には、エルサ・ベスコフらしくない奇想天外なストーリーを擁した、一番好きな絵本です。
(文: ビョルネン・ソベル)
発行年 | 1920年 |
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印刷年 | 1926年 |
作者 | Elsa Beskow (エルサ・ベスコフ) |
挿絵・写真 | Alice Tegnér (アリス・テグネール) |
出版社 | Åhlén & Åkerlund |
サイズ | W: 270mm x H: 270mm |
ページ | 24ページ |
エルサ・ベスコフ Elsa Beskow (1874-1953)
エルサ・ベスコフは19世紀末よりイラストレーターとして活動をはじめ、1897年に自身による初の絵本「Sagan om den lilla, lilla gumman(ちいさな ちいさな おばあちゃん)」で絵本作家デビューしました。かつての牧歌的なスウェーデンの姿や豊かな自然を背景とした作品を多く手掛けました。ベスコフの作品に登場するキャラクターのなかには、彼女の子供たちや親戚、ご近所さんたちがモチーフになっている場合も少なくないそうです。
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